「やぁ、ちゃん」
「こんばんは、榊さん」
「パーティーの席でひとりなんて珍しいね」
「あの二人は、今、かなでちゃんの所ですから」
「今日の主役のところ、か」
「はい」
「じゃあ、俺はラッキーかな」
「はい?」
「邪魔者がいないおかげで、こうして君をダンスへ誘うことが出来るんだから、ね」
「え???」
そう言うと、榊さんがその場に跪いて、あたしの手を取った。
「俺と踊ってくれませんか?」
「え、えっと…あたしで良ければ」
「君がいいから、こうして誘っているんだけどな」
「あはは、それもそうですよね」
ジュースをテーブルに置いて、榊さんのエスコートでホールの真ん中へ出る。
ちょうどその時、かなでちゃんの所から帰ろうとしていた二人と視線が合い、なんとも言えない表情でこっちを見ていた。
「やれやれ、相変わらず君の幼馴染たちに俺は嫌われているようだね」
「そんなことないですよ。きっと認められているから、あんな顔してるんです」
踊りながら時折視界に入る千秋の顔は、どこか面白くなさそうで、蓬生の表情は、珍しく苛立っているようにも見える。
「榊さんといると、普段とは違う二人の表情が見れて、なんか楽しいです」
「俺でよければ、いくらでも協力させて貰うよ。でもちゃん?」
「はい?」
「今、ダンスを踊っているのは俺なんだから。その相手を無視して他の男を見るのは、マナーとして少し失礼じゃないかな?」
「…す、すいません」
「それじゃあ、次の曲では…最初から最後まで、俺から目を離しちゃダメだよ」
「はい…」
曲が変わってからは、彼の言うとおり、目の前の榊さんだけを見つめる事に集中した。
そういえば、こんな風に男の人と踊るのは…あの二人以外、榊さんが初めてかもしれない。
そう思うと、急に緊張して来てしまって、つい…彼の足を思い切り踏んでしまった。
「っ…」
「すいませんっ!」
「これぐらい構わないよ。それだけ…俺を見ていてくれたって、わかっているから…ね」
どうしよう…
急に密着していることが恥ずかしくなって来た。
あの二人だったら、全然大丈夫なのに…どうして、榊さんだとこんなになってしまうんだろう。
さっき踊っていた曲よりも短かったはずなのに、何故かすごく長い時間…彼と踊っていた気が、した。
「ありがとう…ございました」
「俺こそ、踊ってくれてありがとう」
「その、足…大丈夫ですか?」
「ん?なんのことかな?」
優しく微笑まれれば微笑まれるほど、鼓動がどんどん早くなる。
このままここにいたら、心臓が破裂しちゃいそうな気がして、早く二人のところへ戻ろうと考えた。
「それじゃ、あの…失礼します」
「おっと、待ってちゃん」
ぐっ…と掴まれた手。
思わず振り返ったあたしの目に飛び込んで来たのは、手の甲へ顔を寄せている彼の…姿。
音楽で聞こえないはずなのに、何故かしっかりと手の甲に口づけられた音が耳に飛び込み、まるで湯沸かし器のように顔が一気に赤くなる。
そんなあたしを見ても、一向に慌てる様子のない榊さんは、嬉しそうに微笑みながら口づけた手をぎゅっと握った。
「まだまだ俺の見たことない表情がありそうだね。時間をかけて、ゆっくり口説かせて貰うから…覚悟しておいてくれないか」
「榊…さん…」
「今日はこれで退散するよ。このまま君を独占していたら、土岐たちの視線で殺されてしまいそうだ」
「……へ?」
「今度は、お守りのいないところで…この続きをしよう。……いいね」
ゆっくり離れていく手を、思わず掴みたくなる衝動に駆られたけれど、これ以上彼といたら、自分がどうなってしまうかわからなくて、なんとか…踏みとどまった。
ついさっきまで、あたしの視線はいつも一緒にいる幼馴染を探していたのに、今は…離れてしまった、榊さんから、離せない。
口づけられた手の甲に、そっと手を添えて…ただただ、あなたを見つめる。
「あかん…刷り込まれてもうた」
「ちっ…だから、早めにあいつにも教えておけと言ったんだ」
「せやから、俺がしよか?言うたら千秋が邪魔したんよ?」
「お前だとシャレにならねぇだろ」
「あーあ…素直な子やから…あんなことされたら、キュン死にやね」
「蓬生…目が笑ってねぇぞ」
「面白くないことで笑うほど、暇やないよ」
タイトルは寧ろ刷り込みでもいい気がしてきた。
そして、何がしたいのか、よーわからない今日この頃。
榊先輩っつーよりは、寧ろそれにヤキモキする神南コンビで遊びたいだけだと思う。
というか、免疫つけさそう思ってキスするな、蓬生!!(笑)
でもそーいう蓬生も好きだ!←多分こいつが一番おかしい…
手の甲にキスするのが一番似合うのは誰かと考えて、榊先輩が出てきたので書いてみた。
個人的にはハルの方が星奏学院では好きなんだけど、手の甲のキスとハルが結びつきませんでした(苦笑)